果実力

国民健康栄養調査(平成24)によると摂取目標量にもっとも不足していたのは果物とのこと、特に2040歳代の充足率は40%を下回り若い人の果物離れは顕著です。

理由は様々あると思いますが、果物は私たちの生活にはなくてはならない物です。農学博士の田中敬一先生の書かれた「見直そう!くだもののちから」より引用させて頂き本当の果物の力をみなさんに知って頂けたらと思います。

 

ファイトケミカル

 果物にはビタミン、ミネラルのほかに疾病予防に重要なファイトケミカルが沢山含まれています。

ファイトケミカルは人の健康維持・増進の為にビタミン、ミネラル、食物繊維と一緒に働きます。例えば体内の酸化を防止する機能、代謝酵素を刺激する機能、免疫系を刺激する機能、ホルモンの制御、抗ウイルス機能などなど果物からは数百種類のファイトケミカルが発見されています。

 今までに多くの研究者が特定の物質が特定の疾病に単独で効果があると考え研究されてきましたが、そのことを示す証拠は見つかっていません。現在では様々なファイトケミカルが体の中で複合的に働くのではないかと考えられています。

 一方、何か特定の成分を含むサプリメントを摂取することは薦めていません。特定の成分それだけで人に有効に働くとの証拠はなく有害である場合も明らかになっています。

生活習慣病予防

「5 A DAY運動」

 アメリカでは1991年にガン予防を目的とした食生活改善のための「5 A DAY運動」が始められました。「5 A DAY」とは果物と野菜を毎日5サービング(400g)摂取しようという活動です。果物1サービングは握りこぶし1個分に相当します。この食生活改善運動は大きな成功を収めています。最初にガンによる死亡率が減少し、続いて罹患率も減少しました。この運動はガンだけでなく心臓病などの生活習慣病にも効果があると認められています。

 

機能性成分と果物

 ポリフェノールの一種であるケルセチンは強い抗酸化力があり肺ガン予防効果が期待されました。食品の中でケルセチンが多いのはタマネギで1kg当り284486mg含まれています。果物ではりんごに多く1kg当り2172mgでタマネギの10分の1程度です。ところがフィンランドでの疫学調査からガン予防にはタマネギよりりんごの方が効果が高いことが分かりました。りんごの肺ガン予防効果は極めて高く、摂取している人と摂取していない人では発症リスクが58%も低下することが分かりました。一方タマネギでは25%のリスク低下に留まりました。りんごは肺ガンを含むすべてのガンに対して17%もリスクを下げましたが、タマネギでははっきりしませんでした。この結果は食品中の成分含有量からだけではガンの予防効果などを正しく評価できないことを示しています。

 科学的根拠に基づき、世界ガン研究基金とアメリカガン研究財団はガン予防に果物が効果的と勧告しています。ところが食品などから摘出された成分のサプリメントの摂取は無効か有害であると評価しています。

「果物は太る」の誤解

果物のカロリー

 ゴボウとりんごを比較してみます。ゴボウのカロリーは100g当り65kcalですが、りんごのカロリーは100g当り54kcalです。ワサビを一度に100gも食べることはないと思いますが、ワサビのカロリーは88kcalです。ゴボウとワサビを取り上げたのは甘さとカロリーは直接関係がないことを示すためです。甘いお菓子のカロリーが高いのは糖分のためでなく脂肪分が多く含まれているためです。

 果物よりカロリーの低い野菜もたくさんあります。しかしカロリーの低い野菜はそのまま食べるのはまれで、油炒めなど料理するのが普通です。こうしたことから、果物と野菜のカロリーはほぼ同じと考えています。

 

 

糖度とカロリー

 果実の糖度が1度上がると格段に甘く感じますが、糖度が1度増加しても100g当りの糖分が1g増えるだけです。カロリーに換算するとたった4kcalです。また、果物は昔と比べて格段に美味しくなっていますがカロリーはさほど変わりません。果物の美味しさの秘密は甘さだけでなく、酸味や糖と酸の比率、肉質などが関係しています。酸味が少ないと甘いだけの淡白な味となりますが、糖と酸の比率が適正であると濃厚な味になり果物らしさがでます。

 

果物とダイエット

 肥満解消のためには消費カロリーより摂取カロリーを減らす必要があります。しかし、無理なカロリー制限は空腹感などのダイエットストレスに悩まされ長続きしません。カロリーを制限した場合、血液中のストレスホルモンであるコルチゾールの値が増加することが分かりました。コルチゾールは腹部脂肪を増やすホルモンであることからダイエットに失敗しリバウンドするのはその為と考えられています。ストレスを感じることなく食事を楽しみ満足感を得ながら行うことが最良の減量法です。最近の研究から食事の満足感とカロリーとは関係なくボリュームに関係します。カロリーが低くボリュームが大きい食材の代表が果物や野菜です。

 立体的な三次元構造を持つ食物繊維は水を吸収するとゲル化し、ボリュームが非常に大きくなります。例えばリンゴの食物繊維は水を吸収すると体積が12~38倍にも大きくなります。野菜は調理されるため食物繊維の三次元構造が崩れ、水分も外部に出てしまうので生で食べる果物が有効です。

 摂取カロリーを減らす為に、高カロリーである脂肪を減らすダイエット法と脂肪を減らすと同時に食物繊維を多く含む食材(果物)を摂取するダイエット法とを比較すると後者の方が減量効果が高く、6ヵ月後には体重の減少率が3倍も大きくなりました。

 

 炭水化物は太る?

 炭水化物は太るという説が広く流布しています。その根拠に挙げられているのが動物実験などの結果です。そうした研究を詳細に検討すると、体重の増加した動物の食餌には炭水化物が80%とか90%などと通常の食生活では考えられない量の炭水化物が与えられています。その為、体内で代謝異常が起きて体重が増えたと考えられます。同時に行われた試験で、通常レベルの炭水化物を摂取した動物の体重が増えることはありませんでした。

バランスのとれた低カロリー炭水化物ダイエットは、健康的な食事摂取法として推奨されています。理想の炭水化物の比率は総カロリーの55%です。

 

果物の摂取量の上限

アメリカでは毎年、30万人以上が肥満が原因で亡くなっています。肥満は高血圧、糖尿病、高脂血症、冠動脈疾患、骨関節炎、ガン、脂肪肝、睡眠時無呼吸症など多くの疾患リスクを高めることが知られています。アメリカの代表的医療機関であるメイヨ・クリニックの健康体重ダイエットプログラムでは、果物の摂取制限はありません。理由のひとつは果物がビタミン、ミネラル、食物繊維を多く含みカロリーが低く満腹感を得られるためです。

毎日くだもの200g運動

 著者は果物の誤解を解き糖尿病予防、認知症予防、脳卒中予防、眼病予防などにも果物が効果的であると解説し、毎日くだものを200g食べることを推奨しています。